一夜の物語だ。それがいい。
高校で演劇をやっていた4人が、定例の、しかし昨年は開かれなかった飲み会を行う。はやい段階で、本当はここにもう1人いるはずなのだけど彼はもういないことが示唆される。彼ら彼女らは歳を重ね、中年あるある話で盛りあがるが、参加しているひとりにはある思惑があって……。
札幌ハムプロジェクト『黄昏ジャイグルデイバ』。タイトルにあるように、人生の黄昏が訪れはじめた4人+αの物語だ。
前半、気心のあった旧友たちがおりなす、たわいもない会話がつづくのだけど、これがずっと聞いてられる駄話といった感じで心地いい。まったりとしたYouTube LIVE を観ているような、手慣れた落語家の力を抜いた一席のような。
しかし、ふいに挿入される不穏な音と照明が、安易なやすらぎをさまたげる。なんだろうこれは、という見事なフック。その後もこれが何度か入るのだけど、現代という風なのか、それとも未来への不吉な予期なのか。
前半の心地よい会話劇はしだいに熱を帯びていき、後半以降ヒートアップしていく。終盤にいたっては暴走にも思える情熱だ。若さゆえの暴走や空回りを人は青春と呼ぶが、中年の空回りはなんと呼ぼう。みっともないと人は言うかもしれないけど、序盤に病気自慢をしていた4人の中に、いまだ消えない情熱のかけらを見られて、すこし胸が熱くなる。
わずかに残っていた情熱のかけらでも、火がつくとここまで燃え上がるのだ。
たとえば居酒屋のとなりに陣取るおじさんおばさんの集団を見て、つまらない中年話が耳に入ってきて、軽蔑したり失望したり、そういう経験があるだろう。だけどその一団にもかつて燃え上がる時代があって、実はいまもまだその熱が残っているのではと思わされる、説得力をもった劇だった。
そしてなにより僕がよかったのは、冒頭にも書いたようにこれが一夜の、とある定例飲み会ではじまり、しがない中年の黄昏として終わっていく、物語のフォルムとしての美しさがあるところだ。
劇中いろんなことがあった。驚くべき真実や、シリアスな展開。だがけっきょくは数時間の飲み会でしかない。日常の片隅に現れた、人生の情熱と燃えかすと、たしかな残り火なのだ。
公演場所:コンカリーニョ
公演期間:2023年7月22日~7月29日
初出:札幌演劇シーズン2023夏「ゲキカン!」
text by 島崎町